ヴァンテージのデザイナーは誰か。
アストンマーティン・V8ヴァンテージのデザイナーを調べていると、二人の名前が挙がる。
イアン・カラム(Ian Callum)とヘンリック・フィスカー(Henrik Fisker)だ。
私は最近までV8ヴァンテージのデザイナーはイアン・カラムだと思っていたんだけれど、フィスカーによるデザインとする情報を見かけ、どっちなんだよ。という事になった。
結論は、多分フィスカーによるデザインで間違い無いと思う。
詳細を語る前に、まず今回出てくるヴァンテージを一旦整理しよう。
DB7は直6エンジンだったけど、DB7ヴァンテージはV12エンジンを搭載したモデルに進化。「これまでと違う」という事を意識させる為にもヴァンテージという肩書を与えたのだろうか?(DB7もDB7ヴァンテージも基本的に同じ車だが、エンジン切り替えを機に同時期にデビューしたヴァンキッシュにデザインを寄せる化粧直しを行った)
V8ヴァンテージ。この車のデザイナーがカラムかフィスカーのどっちなんだという事だ。V8がついたりつかなかったりするけど、今回は付けないとややこしいのでV8ヴァンテージとした。
先に書いた通り、V8ヴァンテージのデザイナーについて軽く調べてみると、カラムがV8ヴァンテージのデザイナーだとする記事は今もネット上に散見される(この記事とか、こちらでも)。
それは彼がデザインした「DB7ヴァンテージ」や「プロジェクト・ヴァンテージ」をこのV8ヴァンテージと混同してしまっているのではないかという仮説を立ててみた。
プロジェクト・ヴァンテージはヴァンテージと名前が付くものの、ご覧の通りこれはその後のヴァンキッシュ。このデザイナーはイアン・カラム。
イアン・カラムは「ヴァンテージ」と名前の付く車も二台(DB7ヴァンテージ、プロジェクト・ヴァンテージ)デザインしている。
いずれも名前がヴァンテージであることに間違いは無いから、言い方を端折るとカラムがヴァンテージをデザインしたと表現できるし、アストンマーティンに詳しくなければ「ヴァンテージ」と聞いて、V8ヴァンテージを即座に連想しても不思議ではない。しかしDB7ヴァンテージもプロジェクト・ヴァンテージもV8ヴァンテージとは全く異なる車だ。
イアン・カラムとヘンリック・フィスカー
アストンマーティンのデザインにおいて重要な存在であるこの二人とアストンマーティンの関わりをかなり雑にまとめた。今回の話に関わる部分だけ抜粋しているから、詳細はインターネットに聞いてみよう。
イアン・カラム
1979年から1990年までフォードに在籍。フォードを離れた後にTWR Designを設立し、そこで先述の通り「DB7ヴァンテージ」や「プロジェクト・ヴァンテージ」「ヴァンキッシュ」のデザインを行った。
ヘンリック・フィスカー
2000年から2005年頃までフォードに在籍(その当時、フォードはアストンマーティンを所有していた)。フィスカーはDB9、そしてV8ヴァンテージを産み出した。
ちなみにDB9はカラム、フィスカーいずれの作品とされる事もあり、それは正解じゃないだろうか。カラムが創り出したデザインを、フィスカーが引き継ぎ完成させたと私は考えている。
少し話題が逸れたけれど、V8ヴァンテージよりデビューが少し早いDB9の時点でカラムからフィスカーにデザインの主導権が移っている事から、V8ヴァンテージはフィスカーによるデザインと考えるのが自然じゃないか。
で、結局。
・イアン・カラムがデザインした車の中に「DB7ヴァンテージ」「プロジェクト・ヴァンテージ」が存在し、それらは時に「ヴァンテージ」と呼ばれる。それが混同し、(V8)ヴァンテージのデザイナーという話ができてしまったのではないか。
・V8ヴァンテージより少し前のDB9からフィスカーにデザインが移っている事実。
この2点を踏まえて、V8ヴァンテージのデザイナーはフィスカーとして間違いない。という個人的な結論にたどり着いた。
…そんな結論を出した所で、こんなページを見つけた。フィスカー自身のオフィシャルサイトだ。
そこには、V8ヴァンテージが彼の作品として掲載されている。(https://henrikfisker.org/products/production-cars/2005-aston-martin-v8-vantage/)
DB9もここに掲載されているものの、そこには「生産設計を担当」という一言がある。(https://henrikfisker.org/products/production-cars/2004-aston-martin-db9/)
やっぱり、V8ヴァンテージはフィスカーの作品だ。だって、デザイナーが大々的に他人のデザインを自分のデザインだなんて言わないでしょう。
…そもそも、アストンマーティンにおける「ヴァンテージ」ってどんな意味で使われてるんだろうね。