黒の英国会

ご無沙汰です。ごきげんよう。

この前、マクラーレン570C、アストンマーティンDB9GTとV12ヴァンテージの3台で集まってきました。
かなり収穫の多い集いだったので、これは記事を記事にしない訳にいかない!ということで、久々の筆を執るに至ったというわけです。

時は2021年…東京オリンピック・パラリンピックも終了し、夏の暑さも過ぎ去った9月下旬…。
前日までの悪天候が嘘のような快晴に迎えられたその日、その会は開かれたのです。

「黒の英国会」

奇遇な事に集まる3台は全て黒。という事で、勝手に名前を付けてみました。
では、本日の皆様。

570S

マクラーレンのスポーツシリーズの一員、570S

DB9GT

DB9の最終期モデル、DB9GT

そして、V12ヴァンテージ。今回は自分の車の写真があまり無いのです。
まずは集合、そしてなんだかんだと話が始まります。昼食を食べる予定なのに昼食を食べに行かず喋ります。写真もあまり撮らずに喋ります。本当に車好きというやつは困ったものです。

では、似た種類の2台に座り、色々違いを見てみましょう。
DB9GTは最終期のモデルであり、年式もV12ヴァンテージより6年ほど新しい若々しい子。そのため、インテリアのセンターパネルがヴァンキッシュのようなタッチパネル式になっています。

DB9GT

デザインががらっと変わった最終期

シートに座り込むと、シートが柔らかい。DB9はオールレザーで、シートセンター部にスウェードを採用しているV12ヴァンテージと座り心地が結構違いました。柔らかいが張りのある、ほどよく包み込んでくれる気持ちの良いシートです。
またこのDB9はルーフライニングにステッチが施されており、そんなワンポイントもラグジュアリー感の演出に一役買っています。これがあると華やかな印象が増しますね。
スポーツカーであるヴァンテージ、ラグジュアリーGTカーであるDB9。そうやってしっかり作り分けされている事が良く分かりました。ヴァンテージがチープという事ではなく(確かにシートスイッチが黒い樹脂だったり、多少はありますが)、車のキャラクターに合わせて雰囲気作りを分けているという印象です。

そして、マクラーレン570S。こちらはスポーツカーであり、当然ですが方向性の違いを感じます。まず、かなり太いサイドシルを跨いで乗り込む必要がありますが、570Sはフロント側が下にえぐれるような形状で、脚の取り回しが楽になるよう配慮されています。ヴァンテージよりモノがきちんと収納できるグローブボックス、ドアにもポケット、きちんとドリンクの置けるドリンクホルダーも用意され、結構ユーザーフレンドリーな設計でした。車内の実用性はヴァンテージと大差ないか、もしかしたら上かもしれません。

570S

570Sの車両コントロールスイッチ類

570Sはセンターコンソールにあらゆるスイッチが集中配置されています。個人的に、アイドリングストップのボタンとローンチコントロールのボタンという、両極端な目的のボタンが対に配置されているのが面白いなと思いました。

570S

570Sのエアコン操作画面

570Sはインパネ中央のディスプレイでオーディオやエアコン等、車両のコントロール全般を司っているのですが、エアコン操作画面のピクトグラムがヘルメットを被っています。こんな遊び心も、かわいいですね。

DB9GT

DB9GTのディスプレイにも…

ピクトグラムと言えば、DB9GTのオーディオ画面の下の方にはDB9と思わしきシルエットが描かれています。こんな事するならもっと別にやることあるだろうと言いたくならない訳ではありませんが、なんだかユルくて許せてしまいます。

エンジンの始動音も各車様々。12気筒勢であるV12ヴァンテージのDB9GTは基本は同じですが、V12ヴァンテージにはパワークラフトのマフラーがインストールされており、始動時から随分とけたたましい音を奏でます。アイドリング中でも常に野太い音が響き渡る賑やかな仕上がり。対するDV9は始動時こそこちらも勇ましさはあるものの、ヴァンテージに比べれば音の粒が細かく、始動後は穏やかになります。
570Sの始動には特に演出めいたものは無く、エンジンが動き出しました。という感じ。しかし音は勇ましく太く大きく、スポーツカー、レーシングカーのようなアスリートさを感じさせます。

3人の話は尽きることなく、レストランの席待ちにコーヒーを買って休む間もあっという間に過ぎ、15時頃になってやっと昼食。
湿度の低いからっとした晴天で過ごした後のカフェラッテは、ふつうのカフェラッテでもとても美味しく感じられました。

昼食の後は、と言っても昼食を食べて喋っていたら17時をゆうに過ぎているのですが−−−撮影に移動します。

DB9GT

DB9 GT!

DB9GT

V12エンブレムがある

DB9GT

DB9GTのヘッドライト

570S

570SのヘッドライトはLED

570S撮影をし、そして車を前にひたすらあれこれ話をする。デザイン、メンテナンス…よくも尽きないものです。
ヴァンテージとDB9はデザインのテイストとしては似ているのですが、細部を見ると差異が多く、そういった細かい違いによりデザインの雰囲気を創出しているのでしょう。パッと見似ているけど雰囲気は違う。これがデザインの仕事なのかと関心させられます。

スリー・ブリティッシュそして、さんざん話して撮った後は、乗ってみよう。という事に。なんともありがたい事に、DB9GTと570Sの2台を運転させていただく事になりました。
備忘録も兼ねて、私の感想を書き連ねてみます。

まずは兄弟であるDB9GTから運転してみました。
DB9GTはV12ヴァンテージとはかなり味付けの異なる車でした。パワーステアリングはZFの車速感応型サーボトロニックで、低速では強くアシストが効き軽い。トランスミッションはタッチトロニック2(トルコン6速AT)なのでクリープもある。この辺りの相乗効果で、かなり穏やかなフィーリングです。
道路に出て走ってみても、ステアリングの遊びやステアリング操作に対する車の応答性もゆったりしていて、総じてとても穏やか。パドルシフトでシフトダウンすればきちとブリッピングをしてくれますし、6速ATなりにセッテイングを煮詰めている事が感じられました。ちなみにヴァンキッシュはモデル後半、8速ATであるタッチトロニック3に載せ替えられましたが、DB9は最後までタッチトロニック2を貫きました。

エンジンはどうでしょう?DB9GTはAM11 C、圧縮比は11:1、V12ヴァンテージはAM10、圧縮比は10.9:1 のエンジンを搭載しています。蛇足ですが、V12ヴァンテージSではAM28エンジンになり、圧縮比は11.1:1です。
スペックはさておき乗った印象としては「このエンジンの本来の使い方はやっぱりこっちだな〜〜」というものでした。とにかく豊かなトルクを使って粛々と走る。そして回転を上げると遠くからほどほどに音が聞こえてきます。V12エンジンをスポーツにしているV12ヴァンテージの方が異端なんだとこの時に感じました。
クルーザーの様に走る事をサポートするエンジン、それがDB9のV12エンジンです。
しかし走りがかったるい訳ではなく、車のテンポに合わせて操作すればきちんとそれに答えてくれる性能も有しています。高速道路をクルーズしながらバングアンドオルフセンのオーディオで音楽を流しながら走る…そんな使い方が本当にぴったりの車です。V12ヴァンテージは勇猛な音と運転を楽しんで走ろうぜ!みたいな感じです(これはマフラーが変わっている部分も寄与していると思いますが)。
V12ヴァンテージとDB9はエンジンが(ほぼ)同じなだけで全く別の車です。これは断言できます。
ここまで違うとは予想しておらず本当に驚きました。運転しながらずっと驚いていました。

さて…次は570S。マクラーレンです。
こちらはMRスポーツカーです。フロントがすとんと落ちたMRスポーツカーらしいフロントの視界と、周辺視界の良さに関心してしまいます。とても周りが良く見えます。
走り出してみると乗り心地の良さに驚きます。ハードさとは無縁な乗り心地はV12ヴァンテージより多分上で、これは本当にロングツーリングも可能な乗り心地だと思いました。
音はというと…MRなのでエンジン音が煩いかと思いきやそんな事はなく、しかも太いスポーツタイヤを履いているにも関わらずロードノイズが少ない事には驚きました。コンフォートに走ろうと思えば難なく走れてしまう車です。
静かで乗り心地が良い。マクラーレンの感想にこの2フレーズが出てくるとは…。

しかし、アクセルを踏めば本領発揮。綺麗で猛然とした加速をします。570Sはターボエンジンですが、ターボラグが感じられない上に8千回転以上回るとてつもないもの。NAじゃなきゃとかそんな論争などどうでも良くなってしまうようなエンジンでした。サウンドは回転数に応じて大きくなるものの、これもレースカーのエンジンのようにきちんと回って音が出るという感じの音。フェラーリのようなドラマティックな音が好みの方には物足りないかもしれませんが、高性能に裏打ちされた機械を感じる音で、私にはとても気持ち良く感じられるサウンドでした。どんどん回して走らせたくなりますが、どんどん回すと速度が本当にとんでもない事に。

570Sという車の走りは、超能力的な性能を持っているのにそれをドライバーにあまり感じさせない走りでした。
感じられないというのは語弊があるかもしれないのですが…。
すごい速度が出ても恐怖感がない、コーナーも「この車は果たして何kmで曲がれば横Gを感じるんだろう」とか。逆に、常に刺激的ではないと言うこともできます。「なんだこの車は…」という、性能に畏敬の念にも似た感覚を覚えました。
そして、この車はサーキットで楽しむための車である事も分かりました。公道で、果たしてこの車の性能の何割で走っているのだろう…?それほどに高性能な車です。
マクラーレン、欲しい。

マクラーレンはもしかしたらポルシェの上位互換なのかもしれません。スーパーカーなのに日常性もあり、そこまで乗りにくい車でもない。けれども高性能。道を走って、その走りに惚れる…以前所有していた987ケイマンSがそうでした。よき走りの相棒として車に惚れていく…この感覚もまた良いものです。
オーナー曰く「人間と車が一体化する」みたいな事を言っていたので、エヴァだ。と思いました。シンクロ率400%くらいでしょうか。

ブレーキのフィーリングが非常に自然で、踏んだら踏んだだけ効く(きちんと踏まないと効かない)という感覚も私はとても気に入りました。570Sの面白いところは、ゆっくり走っているよりある程度以上のテンポで走っている方が車がスムーズだという所。アストン2台もそういう部分はあるのですが570Sはその傾向が顕著で、そんな所からもハイスピードサーキットを向いて作られた車である事を感じました。
それなのに日常性が高い、どんでもない車です。(フロントのトランクもきちんとそれなりの荷物が入ります)

私のV12ヴァンテージもお二方に運転していただきましたが、V12ヴァンテージに惚れてしまったようで…。なんとも光栄な気持ちでした。
是非3台のV12ヴァンテージを見てみたい、そんな日が来たら良いなと思いました。

試乗会も終わり、すっかり日付も変わり解散。久しぶりにとても楽しい時間を過ごす事ができました。とっても楽しい!
今度は皆でワインディングに走りに行きたいな。

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