アストンマーティンにカーボンセラミックブレーキは必要か?
更新したいけどネタが無い。とTwitterで言ったらネタを提供していただいたから書きに来たよ。
さて…そのネタとは。
「アストンマーティンにカーボンセラミックブレーキは必要か?」
カーボンブレーキとカーボンセラミックブレーキ
まず、一口に「カーボンブレーキ」と言っても2つに大別できる。
カーボンブレーキ
レースカーで使用され、市販車で採用される事はない。
“母材がカーボンで強化剤もカーボン(CFRPは母材が樹脂で強化剤がカーボン繊維)なので、より厳密にはカーボン/カーボンと表記する。”
https://www.honda.co.jp/SuperGT/spcontents2016/deep-learning/vol5.html
“カーボン製ブレーキディスクの素材は、CFRPではなくCC(Carbon-Carbon)、あるいはCCコンポジットと呼ばれる「炭素繊維強化炭素複合材料※1」で、簡単に言うと炭素繊維を炭素で固めた堅牢な素材だ。”
https://www.honda.co.jp/WGP/spcontents2009/studies/07/02.html
カーボンセラミックブレーキ
一般車に採用されるのはこっち。
“CCにシリカ(二酸化珪素)を配合し、1700℃程度の高温で焼結させることで表面に炭化珪素を析出(コーティング)させる特殊製法によって製造される。CCの性格に加えて高温での形状安定性、耐腐食性(耐酸化性)、さらには騒音抑制にも優れているといわれている。”
https://www.honda.co.jp/WGP/spcontents2009/studies/07/02.html
カーボンブレーキとカーボンセラミックブレーキは名前は似ているが材質が異なり、つまり性能や性質も異なるのは注意しなければならない。
カーボンブレーキは温度管理がシビアであり(低くても高くても性能を満足に発揮できない)、市販車に搭載する事は難しい、癖のあるブレーキだ。そういった弱点をある程度改善したものがカーボンセラミックブレーキと思えば良いだろう。
カーボンセラミックブレーキはアストンマーティンに必要なのだろうか?
一般道のみで考えれば装着されていてもいいだろう。
以下のようなカーボンセラミックブレーキの特徴を考えると、通常使用であれば装着する意義はあると思う。
減りにくい
カーボンセラミックブレーキはとにかく鉄ブレーキに比べブレーキダストが少ない。これは日常的メンテナンスにおいては大きなメリットだし、洗ってもすぐ汚れちゃうの、嫌だよね。
メンテナンス面で言うと、ローターやパッドの減りも鉄ブレーキとは比べ物にならないレベルで遅い。本当に減らない。
フェラーリで16万5千km走って、初ブレーキパッド交換
https://minkara.carview.co.jp/userid/2252957/blog/35969116/
こんなレベルだ。ライフサイクルコストとしては、カーボンセラミックブレーキと鉄ブレーキではあまり変わらないのではないかな?
特に整備費が高額になりがちなスーパーカーみたいな車両においてはその可能性がある。逆にBMWとかメルセデスみたいな普通の車(スーパーカー比で普通ってこと)であればブレーキメンテナンスコストもそこそこだろうから、ライフサイクルコストは鉄ブレーキの方が低くなる可能性もある。それに、部品がいつでも日本にあるよ!という車ではない場合、交換のサイクルが伸びるというのはそれだけで楽ではないだろうか。
ブレーキパッドくらいなら普通に在庫してるような気もするけど。
軽量
カーボンセラミックブレーキは軽量だ。鉄ブレーキに比べて半分以下の重量であり、バネ下を軽量化できる事は走行性能の面においてメリットになる。
もしかしたらカーボンセラミックブレーキはブレーキ性能のアドバンテージより、メンテナンス面でのアドバンテージの方が日常的に実感できるかもしれない。
制動力は?
何か数字がある訳ではないが、カーボンセラミックブレーキだから凄い効く!って事は無いだろう。鉄ブレーキでも十分な制動力を確保する事は可能だ。
誰か同じ車種で、カーボンセラミックブレーキと鉄ブレーキの性能比較をして欲しいものだ…。
ただ、鉄ブレーキは効きが悪く、カーボンセラミックブレーキの制動力は最高だ。という考えは私は適切ではないと思っている。それは、ブレーキの制動力というのはローターとパッドの材質だけで決まるものではなく、ブレーキシステムとして考えるべきだと考えているからだ。
パーツが高価
カーボンセラミックブレーキは高い。それは間違いない。
通常使用における耐久性が高い事は間違いないが、いざローターの交換が必要となれば鉄ブレーキとは比較にならない出費となる事は覚悟する必要がある。
とは言え、先程述べたように普通に乗っていてカーボンセラミックローターの寿命を迎える事などまず無いだろうが。
この様に色々メリットもあるけどとにかく高価なのがカーボンセラミックブレーキだ。レースではコスト抑制を理由にレギュレーションでカーボンブレーキの使用が制限されているくらいに高価だ。
最近では最初から標準装備の車両もあるから選択権が無い事もあるだろうけど、カーボンセラミックブレーキの性能面でのアドバンテージは軽量であることくらいだ。多分(違ったらごめん)。
ブレーキ系統が軽量である事が速度域の高いスーパースポーツカーでは大きな意味を持つ事にはなるんだけれど、とにかく高い。
ちなみに、ダラーラ・ストラダーレは標準装備が鉄ブレーキで、カーボンセラミックブレーキはオプション設定すらない。それは、必要が無い、鉄ブレーキの性能で十分だからだそうだ。
じゃあ、なぜアストンマーティンにカーボンセラミックブレーキが採用されるのだろうか。
そんな高いブレーキ入れるより軽いシートにしたり色々他の軽量化だって良いんじゃないかとも思うけれど、バネ下重量の低減はブレーキ系統やホイールの軽量化でないと実現できないのも確かだよね。いくらシートを無くそうがバネ下重量は軽くなってはくれない。車重は軽くなるけど。
ちなみにV12ヴァンテージはエンジンが重くなったぶんをブレーキのカーボンセラミック化で重量増を抑制していて、その選択には合理性を感じた。
基本的にカーボンセラミックブレーキの採用は複合的な条件から決まっているような気がして、どうしても「こうだ」と言い切れない部分が多くて推測で語るばかりになってしまうのが残念だ。
本当に性能の為に必要だったのだろうか?どういう思惑で採用されたのだろうか?
明確な答えが出ないのであった。
最後に、少しおまけ。
サーキットにおけるカーボンセラミックブレーキ
これまでは一般道における話。フィールドがサーキットに移るとどうだろうか。
これが分からない。情報が無いのだよ。
サーキットで使ったらあっという間に劣化してしまったという話も時々目にするし、日産のサイトにはこんな事が書いてある。
“通常走行においては非常に高い耐久性を持ち、また、非常に軽量なためバネ下荷重が低減されることで路面への追従性が向上します。
スポーツ走行やブレーキを酷使するような走行をすると、ブレーキパッドの摩耗や高温の摩擦熱によりブレーキディスクローター内部の組成状態が変化することによって外観上問題が無くても交換が必要な場合があります。”
https://www.nissan.co.jp/OPTIONAL-PARTS/NAVIOM/GT-R_SPECIAL/1910/PG/guid-266bf029-f19a-46f4-a93c-a6d217f4e4ac.html
しかし、逆に以下のような情報もあり、本当のところどうなのか判断しかねる。
ちなみに、日産が採用するカーボンセラミックブレーキ(NCCB)はブレンボ製で、次に出てくるブレンボの主張と日産の主張が異なるのが余計に話をややこしくしている。
カーボンセラミックブレーキは鉄ブレーキに比べれば登場も最近であり、未だに技術の発展途上なのだろうか?カーボンブレーキに比べカーボンセラミックブレーキは技術的情報が少なく、判断が難しい。
“CCの性格に加えて高温での形状安定性、耐腐食性(耐酸化性)、さらには騒音抑制にも優れているといわれている。”
https://www.honda.co.jp/WGP/spcontents2009/studies/07/03.html
“カーボン-セラミックブレーキは、カーボンディスクの持つ利点のほとんどを有している上、温度特性も改善されている。また耐熱衝撃性に優れているので、耐久性が高まっているのだ。”
https://jp.motorsport.com/f1/news/f1-could-move-to-carbon-ceramic-brakes-in-future/4448861/
画像は、様々な自動車メーカーにOEMを行っているブレンボのWebサイトより。ポルシェもアストンマーティンもブレンボ製だった。
このグラフを見ると高負荷(高温)環境下も使用範囲内としており、これだけ見ればサーキットでの使用も問題無いように思える。しかも、そこには「カーボン/セラミックが特に減速時、またより過酷な条件下においても劣化しにくいのにはこの特性が大きく関係しています。」という文も添えてある。
過酷な条件下(サーキットの様に200km/h級から50km/hのフルブレーキングを繰り返すとか、そういう感じだろう)でも劣化しにくいという言葉を信じるとすればサーキットでの使用にも十分耐えうるはずだ。
あとフェラーリFFって、少し前のモデル(2011年デビュー)だけど、その時点ですらそれだけの性能ということか?