V8ヴァンテージの仕様変更を追って – アストン流の改良とは
アストンマーティン、V8ヴァンテージのモデルライフは約12年。人間で言えば小学校を卒業するほどの長い時間。干支も一周して兎に帰ってくる。
デビュー時とモデル末期でさまざまな仕様が異なるのは良くある事。しかし、アストンマーティンの仕様変更はまるで海を漂う海月のようにゆらゆらと行われる事も多いが故に、通常よく言われる「前期」「後期」といったはっきりとした区分が難しい事もある。中古車を選ぶにも、その車がどういった時期の仕様(オプションの話ではない)なのかしっかり把握するのは知識が無いと難しいかもしれない。
そこで今回、V8ヴァンテージの歴史を年表形式でまとめてみた。時期については、日本に入ってきたタイミングではないので気をつけて欲しい。また、日本に導入されていないモデルや、一部の特別モデルも省いている。主に、一般的に流通しているモデルに絞った年表です。
Timeline
2003
AMV8 ヴァンテージ コンセプト
1月にアメリカ、デトロイトモーターショーでコンセプトモデルを発表。

AMV8 Vantage Concept(2003)
2005
V8ヴァンテージがデビュー
3月のジュネーブモーターショーで2006MYとして発表された。エンジン出力は385ps,トルク410Nm

V8 Vantage(2005)
2006
メーターのLEDカラー変更
黄色から白に変更された

初期はLEDがイエローだった(写真はAMV8 Vantage Concept)
2007
シート形状変更
2007MYよりシート形状が変更

新しいシート形状(写真はロードスター)
2007
トランスミッション追加
これまではMTのみしか設定が無かったが、2007年の第2四半期頃より2ペダルトランスミッションであるスポーツシフトの設定が追加(6速シングルクラッチAT)。
2007
V8ヴァンテージ N400追加
2008MYとしてモデル追加。2007年、フランクフルトモーターショーで発表。
標準モデルに比べ、
・エンジン出力が向上(405ps,420Nm)
・スプリングとダンパー、リアアンチロールバーが変更
・クリアテールが標準装備
生産台数480台(クーペ、ロードスターで各240台)の限定車だが、そんなに売れなかった。
2009
排気量が4.7Lに変更
・排気量が4.7リッターに拡大、出力が向上(426ps,470Nm)。
・センターコンソール変更(ECUの採用)
・ルーフにあった車外アンテナ廃止
・スポーツシフト改良(クラッチ・フライホイール変更、0.5kgの軽量化)
・サスペンションセッティング変更
・クリアテール追加(デビュー後しばらくしてオプションとして設定)

ダッシュボードのデザインが変更された
2010
V8ヴァンテージ N420追加
N400の後継、2011MYとして2010年7月頃に登場。機関系は標準モデルに準ずる。スポーツパックサスペンション、スポーツエキゾーストシステム等の採用により27kg軽量化。
2011
V8ヴァンテージS追加
2011年のジュネーブモーターショーでデビュー。エンジンは4.7リッターモデルの改良版が搭載されている。トランスミッションはMTとAMTが用意された。
標準モデルに比べ、
・エンジン出力が向上(436ps・490Nm)
・トランスミッションがスポーツシフト2に変更(7速シングルクラッチAT。大幅な軽量化、変速速度の高速化)
・ブレーキシステムの変更(6ポットキャリパー)
・ステアリングギア比の変更(17:1から15:1へ)
・サスペンションスプリング・ダンパー変更(ビルシュタイン)
・エクステリアは基本的にV12ヴァンテージに準ずる(ボンネット形状は異なる)
2012
ワイパー変更
2012年の比較的早い時期から、ワイパーブレードがフラットタイプのものに変更された。
2012
標準モデル 仕様変更
ヴァンテージSの登場から約半年後の2012年3月のジュネーブモーターショーで発表。
標準モデルにもヴァンテージSに準ずる変更が多く加えられた。
・2ペダルトランスミッションがスポーツシフト2に変更
・エクステリアはサイドシル形状以外はヴァンテージSと同一に
・フロントエアダムは樹脂製だが、オプションでSと同じくカーボンを選択可能
・ブレーキシステムもヴァンテージSと同一に変更
2014
V8ヴァンテージ N430追加
N420後継、2015MYとして登場。基本はV8ヴァンテージSに準ずる。軽量シートにより20kgの軽量化。
2016
ダッシュボードデザインが変更
2016MYより、ヴァンキッシュに準ずるダッシュボードデザインが採用された。

2016MYで新しくなったヴァンテージのダッシュボード
2016
V8ヴァンテージ グレード廃止
4.7リッターの標準モデルが終売。以降はヴァンテージSがボトムグレードとなった。
小さな仕様変更と大きな仕様変更が入り混じり、一筋縄ではいかない。100年を超える歴史と伝統の為せる技だろうか。
見ての通り初期モデルと最終モデルではかなり仕様が異なる。シート、エンジン、ダッシュボード、エクステリア…。こうして表に出るような変更点だけでもこれだか多岐に渡るので、例えばセッティング変更とか、もっと細かな仕様の変更も行われている可能性も十分に考えられる。
ちなみに、2009年の変更点として記載されている「ECU」は、Engine Control Unit ではなく Emotion Control Unit の事だ。
なんのことはない、ガラスキーを採用したということだ。エモーションをコントロールとは、英国紳士の発想は個性的ですね。ガラスキーの話が出た所だし、ここで少しダッシュボードの話をしよう。

ECU採用前のスタートボタン
「アストンマーティンと言えばガラスキー」くらいの連想をされる事もあるが、採用されたのはヴァンテージではモデル中盤に入ってから。それまでは、ダッシュボードにあるスイッチは「ただのスタートボタン」の役目しか無いもので、別途キーを差し込む必要があった。
ヴァンテージのダッシュボードの変化を1枚にした。画像右の最も新しいダッシュボードが装着されたヴァンテージは生産期間が短いため、ヴァンテージ全体に占める台数は少ないものと思われる。
これがヴァンキッシュのインテリア。このデザインを踏襲しているのが良く分かる。全く同じように見えるがボタンの配置等が異なるからきちんと別物だろう。
さて、V8ヴァンテージの12年間がなんとなく分かっただろうか。分かったのであれば作った甲斐があるというもの。ヴァンテージにはロードスターやV12ヴァンテージも存在するが、それらを含めてしまうと更に複雑になるだろうと思い、今回はクーペのV8モデルに限って話をしました。
それでは、ごきげんよう。